夏目長門さん

愛知学院大学歯学部教授、日本口腔ケア学会学術委員長、口唇口蓋裂センター部長、日本口唇口蓋裂協会常務理事など

食を楽しむ環境づくりは
きちんとかむ力をつけることから!

「昔は口腔ケアという言葉はありませんでした」と語り始めたのは、医学・歯学博士で愛知学院大学歯学部教授、日本口腔ケア学会の常務理事でもある夏目長門さん。実は、口腔ケアは名古屋から生まれた言葉で、日本口腔ケア学会の登録商標なのだそう。「口腔ケアには、口をきれいにすることはもちろん、おいしく食べることや、おいしく食べる環境という意味も含まれています。たとえば、食べ物の“かたさ”や“味”、“栄養素”など、口や食に関わることすべてを口腔ケアといっています」

家族は高齢者の料理を、食べやすいように軟らかい食品形態にすべきだと考えがちですが、「それは間違い」だと夏目先生。「軟らかいものやペースト状のものを食べさせるのではなく、かみ応えがあって、かんでいると味がでるものを意識して食べさせることが大切。ただし、のどに詰まらせないよう、食材によっては食べやすい大きさにする工夫は必要です」

飲み込む力が弱くなることによって、本来は胃に行くはずの唾液や食べかすが誤って肺に入ることを誤嚥といいます。これによって起こる「誤嚥性肺炎」は、左頁の表にあるとおり、高齢者になればなるほど増えていきます。これを防ぐためにも口腔ケアは有効だと夏目先生。

「口を動かす練習をすることによって飲み込む力を維持・上昇することができます。ほかにも、よくかむこと、きちんと食べることです」

口腔ケアの基本は食物を取り込むこと。能率よく取り込むためにはよくかむこと。かむことによって満足感を得る。満足することで過食にならない…。つまり、きちんとかむことを始めることが、何よりも効果的な口腔ケアなのかもしれません。

オーラルプラスシリーズ

洗浄による乾燥ダメージを抑え、うるおいのある清潔な口内環境に整えます。口腔ケア専用のウエットティッシュやスポンジブラシなど、介助者に便利な商品もそろっています。

問い合わせ
和光堂 TEL.0120(88)9283
(お客様相談室、土・日・祝は休み)
http://www.wakodo.co.jp/

バトラー口腔ケアシリーズ

プロフェッショナルの視点から開発された「バトラー口腔ケアシリーズ」。乾燥したお口にシュッとひと吹きでうるおいをあたえるスプレーやノンアルコールタイプの保湿洗口液など、高齢者にやさしいラインナップです。

問い合わせ
サンスター http://jp.sunstar.com/

高齢者を肺炎から守るために必要なのは
うがい・手洗い・歯磨き、そして予防接種

もうひとつ気をつけなくてはいけないのが、体力が落ちることによって起こる日和見(ひよりみ)感染。これは健康な人では感染症を起こさないような病原体が、インフルエンザなどによって体力が落ち、一気に増えることをいいます。「口の中が汚ければ、ますます菌も増えます。体調が悪いときはなかなか歯を磨けないと思うけれど、それはよくありません。体調が悪いときほど口の中を清潔にしておかないと肺炎を起こす可能性が高くなります」

そして、夏目先生が何度も繰り返していたのが「手洗い、うがい、歯磨きをきちんとしましょう」ということ。これらを続けることで5年生存率が格段に変わるといいます。

「肺炎は高齢者の重大な死亡原因のひとつで、肺炎で死亡する90%以上は65歳以上といわれています。うがいや手洗いをすることによって細菌が入る量を減らし、歯を磨くことによって口の中の炎症を防ぐことができます。そして、絶対に忘れてはいけないのが予防接種。予防接種を受けることで、肺炎になる確率を下げることができます」

大切な人の命を守るために必要な口腔ケア。できることから、今すぐ始めませんか。

使わなくなった金歯や銀歯を、子どもたちの笑顔に!

バトラー口腔ケアシリーズ

NPO法人「日本口唇口蓋裂協会」では、口唇口蓋裂など先天的な障がいのある子どもたちのために、貴金属リサイクル運動を実施しています。切れてしまったネックレスや片方なくしたイヤリング、石がとれた指輪はもちろん、金歯や銀歯、金属のついた入れ歯(義歯がついていても可)など、貴金属類であれば何でもOK。寄付された貴金属はリサイクル処理して元の材料に戻して売却。その純益を子どもたちの手術資金に充てています。早速、家の中を探して、子どもたちに笑顔をプレゼントしてみませんか?

問い合わせ
NPO法人日本口唇口蓋裂協会 TEL.052(757)4312 http://jcpf.agu.jp/

取材協力
日本口腔ケア学会
TEL.052(784)6302 http://www.oralcare-jp.org/

ヘルパーエッセイ

「入れ歯にまつわるよもやま話」

ある施設で働きはじめたばかりのころ。なにもかもが初めてで、ドギマギしている私に、「じゃあ、この入れ歯をAさんに入れてください」と先輩職員にいきなり頼まれました。

「エッ? い、入れ歯ですか」

心の中はますますバクバク。子どものころ、夜の洗面所に置いてあった祖父の総入れ歯がとてもこわくて正視できなかった経験がある私。入れ歯はそれ以来見たこともなければさわったこともありません。でも、「入れ歯がコワイからできません」とも言えず、エーイと思いきって入れ歯をつかみました。

つかんでみたものの、上下も向きもわかりません。ご本人は会話のできない方で、聞くこともできません。周りの職員さんはみんな忙しそうで、入れ歯の上下を聞きにいく勇気がありません。

「どうしよう、どうしよう。こうかな?」とおそるおそる口に入れてみたら、思いっきり逆。あやまりながら、何度かトライして、やっと「カポッ」とおさまったときは汗だくになっていました。

今は在宅介護の仕事をしていますが、入れ歯のケアにはかなり個人差があるようです。ずっと入れっぱなしではずすことができなくなっている人もいるし、声をかけてはずしてもらうと、入れ歯慣れした私でもギョギョッとするほど汚れている方もいます。

自分にあった入れ歯を大事にケアしながら使っている方は、食事の仕方も自然で、おいしそうに食べています。

私も、いつか入れ歯になったら、上手につきあっていきたいな、でもその前に、できるかぎり自分の歯で食べたいな、と思います。

文/橘はこべ
野鳥とワインを愛する名古屋市在住の介護福祉士。仕事のかたわら、
利用者さんの生い立ちや思い出を聞き取り、文章にすることをライフワークにしています。